生活習慣病とは
不摂生なライフスタイル(過食、運動不足、喫煙、多量の飲酒、ストレスなど)の積み重ねがきっかけで発症する病気を総称して生活習慣病といいます。代表的な疾患は、糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症など、これまで生活習慣病に罹患したことがない方でも一度は聞いたことのある病名が含まれます。
これらの病気は自覚症状が現れにくく、徐々に全身の血管がダメージを受け、動脈硬化が進行していきます。
その結果、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)や心疾患(狭心症、心筋梗塞)などの命に関わる重篤な合併症を発症します。
このような状態にならないためには、定期的に健康診断を受け、血圧、血糖、コレステロールなどの数値に異常がみられれば、自覚症状がなくても当院を一度ご受診ください。適切な生活指導や治療を受けることで、生活習慣病の発症や重度な合併症のリスクを下げることができます。
糖尿病
血糖値とは血液中に含まれるブドウ糖(脳などのエネルギー源)の濃度を数値化したものです。この数値が慢性的に高い状態にあるのが糖尿病です。診断は、血液検査によって行われますが、具体的に糖尿病と診断される基準となる数値は以下の通りです。
- ①下記の3つある項目のいずれかに該当する。空腹時血糖値が126mg/dL以上、75gOGTT2時間値が200mg/dl以上、随時血糖値が200mg/dl以上であること。
- ②HbA1cの数値が6.5%以上
※①と②の両方ともが該当するのであれば糖尿病と診断されます。①もしくは②のみ該当するのであれば「糖尿病型」と判定され、再度検査を行います。その結果、やはり「糖尿病型」の結果が出た場合は、糖尿病と診断されることになります。
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)が高い状態が続く病気です。ブドウ糖は、脳などのエネルギー源として利用されますが、膵臓から分泌されるホルモン「インスリン」の働きによって細胞に取り込まれ、エネルギーに変換されます。インスリンの作用不足や効き目の低下が原因で、ブドウ糖が血液中に増え続けると、血糖値が慢性的に上昇し、これが糖尿病となります。
なお糖尿病は1型、2型に分けられますが、日本人の95%以上は2型糖尿病といわれています。2型糖尿病は生活習慣の乱れ(高脂肪食、運動不足、肥満、ストレスなど)や遺伝的要因を背景として、膵臓のインスリン分泌が不足したり、分泌されても効きが悪くなったりする(インスリン抵抗性)ことで発症します。
自覚症状が出にくいので進行しやすい
糖尿病は発症初期には自覚症状が現れにくく、病状がある程度まで進行すると、喉が異常に渇く、多尿・頻尿、全身の倦怠感、体重減少などがみられるようになります。これらの症状が現れると、糖尿病によって増加したブドウ糖が血管を損傷し、特に細小血管が集まる部位で血管障害による合併症が起きやすくなります。これは糖尿病三大合併症(網膜症、腎症、神経障害)とも呼ばれています。これらを放置すれば、失明、人工透析、足の壊疽などが起きることもあります。また、太い血管では動脈硬化を促進させるので、脳血管障害(脳梗塞等)や虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)などの重篤な合併症のリスクも高まります。
治療について
2型糖尿病の患者様ではインスリンが少ないものの、ある程度は分泌されています。そのため、まずは生活習慣の見直しから始めます。具体的には、食事療法と運動療法が推奨されます。
食事療法では、規則正しく、栄養バランスの取れた食事(朝・昼・夕)をとり、食べ過ぎないようにすることが基本です。
運動療法では、体を動かすことでインスリンの働きを改善させる効果があります。特に、息が上がる程度の有酸素運動(例えば、軽いジョギング、ウォーキング、自転車など)を1日30分以上行うことが推奨されます。過度な運動は必要ありませんが、習慣づけることが大切です。
生活習慣の改善だけでは血糖のコントロールが困難な場合には、併せて薬物療法が行われます。ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬、GLP-1受容体作動薬などの薬剤を併用し、血糖コントロールを目指します。
※当院ではインスリン療法は行なっておりません。
そのため、専門治療が必要な患者様は専門科を有する医療機関へご紹介させていただきます。
高血圧
血圧とは、心臓から全身に血液が送られる際に血管壁にかかる圧力のことを指します。この血圧が慢性的に高い状態が続くと、高血圧と診断されます。具体的には、外来での血圧測定において、収縮期血圧(最高血圧:心臓が収縮する際の圧力)が140mmHg以上、もしくは拡張期血圧(最低血圧:心臓が拡張して血液を溜め込む際の圧力)が90mmHg以上の場合、高血圧とされます。
慢性的に血圧が高くても、自覚症状が現れることはほとんどありません(急激に血圧が上昇すると頭痛やめまいが生じることはあります)。そのため、健診などで血圧が高いと指摘されても、多くの患者様はそのまま放置しがちです。しかし、血圧が高い状態が続くと、心臓は常に負荷をかけて血液を送り続け、血管壁はダメージを受け続けます。これにより動脈硬化が進行し、血管が肥厚化したり脆弱化したりすることになります。さらに進行すると、血管が狭窄や閉塞し、脳卒中(脳梗塞など)、心疾患(心筋梗塞、狭心症、心不全など)、腎臓病(腎硬化症など)といった重篤な合併症を引き起こすことも少なくありません。
本態性高血圧と二次性高血圧
高血圧の発症原因は大きく2つに分けられます。
ひとつは本態性高血圧です。これは明確な原因が特定できない高血圧であり、遺伝的要因や日常の生活習慣が関係していると考えられています。本態性高血圧は、日本人の全高血圧患者の約9割を占めると言われています。
もうひとつは二次性高血圧です。これは特定の原因疾患があって発症する高血圧です。具体的には、腎性高血圧(腎実質性高血圧、腎血管性高血圧)、内分泌疾患(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫など)、薬剤(NSAIDs、漢方薬の甘草、ステロイドなど)の影響、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)などが挙げられます。二次性高血圧の場合、原因疾患の治療を行うことで、血圧が改善することもあります。
治療について
高血圧と診断された患者様は、まず生活習慣の見直しから始めます。例えば、食事面では食塩の摂取を1日6g未満に抑え、栄養バランスを考えたメニュー(野菜や果物、魚などの積極的な摂取)を心がけます。
また、無理のない範囲での中強度の有酸素運動(1日30分以上のウォーキングなど)は血圧を下げる効果があるため、日常生活のルーティンに取り入れてください。
さらに、肥満の方は心臓に大きな負担をかけるため、減量(理想的にはBMI25未満)に努めます。喫煙される方は禁煙を、お酒を飲む方は節酒を厳守するようにします。
上記の取り組みだけでは血圧がコントロールできない場合、併行して薬物療法を行います。降圧薬としては、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬、ACE阻害薬、ARBなどが用いられます。患者様の血圧の状態に応じて、1種類の薬で済むこともあれば、複数の薬を組み合わせることもあります。
脂質異常症
脂質異常症とは、血液中の脂質であるLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)が過剰に存在する、またはHDL(善玉)コレステロールが不足している状態を指します。血液検査によって診断され、その基準は以下の通りです。脂質異常症は主に3つのタイプに分類されます。
- 高LDLコレステロール血症
- LDLコレステロールが140mg/dL以上
- 高トリグリセリド血症
- トリグリセリド(中性脂肪)が
空腹時150mg/dL以上、非空腹時175mg/dL以上 - 低HDLコレステロール血症
- HDLコレステロールが40mg/dL未満
脂質異常症はいずれのタイプでも血管内にコレステロールが蓄積しやすくなります。この疾患は他の生活習慣病と同様に自覚症状が現れにくく、多くの患者様は定期的な健康診断で初めて気づきます。しかし、放置すると動脈硬化が進行し、血管狭窄や閉塞を引き起こし、脳血管障害(脳梗塞など)や虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)の合併症を招くことがあります。このような状態を防ぐため、症状がなくても数値の異常に気づいたら、一度当院をご受診ください。
発症原因には、遺伝的要因(家族性高コレステロール血症など)や遺伝子異常が含まれますが、多くの場合、不摂生な生活習慣(高脂肪食の過剰摂取、運動不足、喫煙、多量の飲酒、肥満など)、別の病気(高血圧、糖尿病、甲状腺機能低下症など)、薬の影響(ステロイドの長期投与など)が関与しています。
治療について
治療が必要な場合、まずは生活習慣の改善から始めます。特に重要なのは食事療法です。コレステロールが多く含まれる食品(卵黄、レバー、魚卵、乳製品、肉の脂身など)の摂取を控えます。高トリグリセリド血症の患者様は、アルコールや糖分を多く含む食品も避ける必要があります。積極的に摂りたい食品は、食物繊維を多く含む野菜、海藻、きのこ類などです。タンパク質を摂る場合は、青魚や大豆製品を選びます。
また、運動は中性脂肪を減少させ、HDLコレステロールを増やす効果があるため、継続的に体を動かすことが重要です。中強度の有酸素運動(ウォーキングや軽度なジョギング、自転車など)を1日30分以上行うことが望ましいです。さらに、喫煙される方は禁煙を、お酒を飲む方は節酒を心がけます。
生活習慣の改善だけではLDLコレステロールなどの数値をコントロールできない場合、薬物療法も併行します。この場合、LDLコレステロール値を下げる効果があるスタチンや小腸コレステロールトランスポーター阻害薬など、トリグリセリドの数値を下げる効果があるフィブラートや選択的PPARαモジュレーターなどが用いられます。
高尿酸血症(痛風)
血液中の尿酸が過剰な状態になると、高尿酸血症と診断されます。具体的には、血清尿酸値(血液中の尿酸の濃度)が7.0mg/dL以上の場合を指します。
尿酸は水に溶けにくい性質があり、高尿酸血症の状態になると尿酸は結晶化して尿酸塩となります。これが関節内に蓄積すると、白血球が反応して攻撃を始め、その結果として関節が急速に腫れ、激しい痛みに襲われるようになります(痛風発作)。この発作は関節ならどこでも起こる可能性がありますが、多くは足の親指の付け根で発生します(足首や膝でも見られることがあります)。痛風は特別な治療を行わなくても、発症から24時間で痛みがピークに達し、その後徐々に軽減し、1週間後には何事もなかったかのように治まります。しかし、放置すると再発するリスクが高くなります。
痛風以外にも注意が必要
高尿酸血症が続くと、痛風以外にも以下のような合併症が生じる可能性があります。尿路結石や腎障害、皮膚にしこりのようなものが見られる痛風結節などです。また、尿酸値が高いと動脈硬化が進行し、脳血管障害(脳梗塞など)や心臓病(心筋梗塞など)のリスクも高くなるともいわれています。自覚症状がなくても、高尿酸血症と診断された場合は、速やかに尿酸値を下げる対策を講じることが重要です。
尿酸値が上昇する原因には、以下の3つのタイプがあります:
- 尿酸産生過剰型
- 尿酸を過剰に産生するタイプ。プリン体を多く含む食品の過剰摂取、激しい無酸素運動、白血病などの造血器疾患、お酒の飲み過ぎが原因となる
- 尿酸排泄低下型
- 尿酸の排泄が難しくなり体内に尿酸が蓄積するタイプ。遺伝的要因、脱水症状、腎機能障害などが引き起こす
- 混合型
- 上記2つの要因が組み合わさるタイプで、肥満の方に多く見られる
治療について
治療の目的は尿酸値を下げることです。まずは生活習慣の改善から始めます。具体的には、お酒の節酒を心がけ、プリン体を多く含む食品(魚の干物、大正エビ、レバーなど)の摂取を控えます。また、尿酸の排出を促進するために、水分や野菜を多めに摂るようにしてください。適度な有酸素運動(ウォーキングや自転車など)も尿酸値を下げるのに有効ですが、激しい運動は一時的な尿酸値上昇を起こし、痛風発作引き起こしやすくなるので注意しましょう。肥満の方は減量も大切です。
これらの生活習慣の改善だけでは尿酸値を下げるのが難しい場合、薬物療法が必要です。高尿酸血症のタイプに応じて、尿酸の生成を抑制する薬(アロプリノール、フェブキソスタットなど)や、尿酸の排泄を促進する薬(ベンズブロマロン、プロベネシドなど)が用いられます。
なお、痛風発作を起こしている場合は、尿酸値を下げる薬は症状悪化の原因となるため使用せず、炎症や痛みを抑えるためにNSAIDsやコルヒチンなどが処方されます。痛風の症状が治まった後に、尿酸値を下げる薬の使用を行います。