消化器内科とは
食べ物の通り道である口から肛門までの消化管(食道・胃・小腸・大腸)および消化機能に関わる実質臓器(肝臓・胆のう・膵臓)を専門領域とする診療科です。
この領域の病気は非常に幅広く、また治療法も多岐にわたります。
よくみられる症状として、腹痛、嘔気、嘔吐、食欲不振、下痢、便秘などがあり、中には吐血や下血・血便、黄疸といった重篤なものもあります。また、腹痛の中にも手術を要するような緊急性の高い疾患(急性胆嚢炎・胆管炎、急性虫垂炎、腸閉塞など)も存在します。
そのため、消化器疾患の適切な診断、治療には丁寧な問診に加えて、腹部の診察、検査(X線撮影、腹部超音波検査、胃カメラ、大腸カメラなど)を行い、患者様に最善の治療を提供する必要があります。
当院では消化器専門診療に長年従事し、患者様に納得いただけるよう、日々こだわりのある診療を行ってきた院長が診療にあたりますので、ぜひ受診ください。
以下の症状があれば、当診療科をご受診ください
消化器内科で扱う主な疾患
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎
ピロリ菌(Helicobacter pylori)は1982年にWarrenとMarshallにより発見され、その後の研究により胃・十二指腸潰瘍、慢性萎縮性胃炎、胃がんやリンパ腫などの原因菌であることが明らかとなりました。
ピロリ菌感染の患者様の多くは無症状であることが多いものの、みぞおちの痛み、悪心、胸焼け、胃もたれ感を来す方もいます。
採血でのピロリ抗体測定、胃カメラでの生検、尿素呼気試験や便中抗原検査などで感染診断を行い、陽性と判断された場合はガイドラインに従った除菌治療を行います※1。
本邦においては、2013年にヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となり、毎年130~140万人が除菌治療を受けています。今後ピロリ菌感染者は確実に減少していくことが想定され、胃がん患者の減少が期待されます。
一方、ピロリ菌除菌後も胃がん発症リスクは1/2〜1/3程度残存し、除菌後の患者様が以前として多い現在、ピロリ除菌後患者様の発がん(除菌後胃がん)に注意する必要があります※2。
除菌後胃がんは早期癌の段階においては、通常の胃がんに比べて視認困難な病変が多く、細心の注意で胃内を観察する必要があります。
また、診断精度を上げるためには、術者の知識に加えて、高精細な画質を有する内視鏡機器が必要となります。
当院ではオリンパス社製の最新の内視鏡システム「EVIS X1」およびスコープを完備し、総合病院に劣らない精度での診断をお約束します。
- ※1 強力な酸分泌抑制薬と抗菌薬を併せた治療を1週間行います。
90%以上の確率で除菌成功しますが、不成功に終わってしまった場合、抗菌薬を変更した2次除菌治療まで保険適用で治療可能です。2次除菌で99%の方が除菌成功するとされています。 - ※2 健診などで「慢性胃炎」「萎縮性胃炎」と診断をされたことのある方は、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎もしくは除菌後の可能性が高いです。
胃炎の程度にはよりますが、胃がんの発見を念頭においた、高精度の胃カメラの定期検査が胃癌の早期発見には必要です。
ご心配な方は、院長が丁寧にご説明し、必要な検査を提案いたしますので、一度ご来院ください。
胃食道逆流症
胃食道逆流症(GERD: gastro esophageal reflux disease)は、主に胃酸が食道に逆流することにより、胸焼けや呑酸(酸っぱいものが込み上げる感覚)などの不快な自覚症状を感じたり、食道粘膜がただれたりする疾患です。
胸が詰まるような痛みを感じたり、のどのつかえや違和感、慢性的に咳が持続する方もおられます。
健康な人でも胃酸逆流を認めることはありますが、1日のわずか数%以下であり、また食道の蠕動運動により胃に胃酸がすぐに戻されるため、問題にはなりません。
GERDの患者様は蠕動運動に問題があることで本症を発症すると考えられています。
特に食道裂孔ヘルニア(胃と食道のつなぎ目が緩んでしまう病気)があると胃酸がより逆流しやすくなり、長時間食道内に胃酸がとどまることで重症化するといわれています。
GERDには ①胃カメラで食道炎がなく自覚症状のみあるタイプ(非びらん性逆流症、NERD: non-erosive reflux disease)、②胃カメラで食道粘膜のただれを認める場合(逆流性食道炎、RE: reflux esophagitis)の2種類に分類されます。
NERD患者様はわずかな胃酸の逆流でも強い自覚症状を感じる場合があり、食道の知覚過敏が背景にあると考えられています。
本症は最も有病率の高い消化器疾患の1つです。
食生活の欧米化、後述するピロリ菌感染者の減少などが増加の原因と考えられ、現在成人の10~20%がGERDにかかっていると推測されています。
GERDは命に関わるような病気ではないものの、食事が十分に楽しめない、ぐっすり眠れない、集中できず仕事がはかどらない、など生活の質の低下を招くため、適切な治療が必要です。
治療としては、生活習慣の見直しが重要です。具体的には、食べ過ぎ、高脂肪食摂取、就寝前2~3時間の食事回避や過体重者の減量、過度な腹圧上昇(前かがみの姿勢や腹部の締め付け)、右側臥位(右側を下にして寝る)、ストレス、カフェイン、喫煙、甘味摂取、多量飲酒(特に炭酸を含む飲料)なども症状悪化の原因とされており、これらの除去が治療に有効です。適切な薬剤の内服により、多くの患者様が症状から解放され、精神的ストレスが軽減されることで、満足度の高い日常生活や社会活動を行うことを目指します。
薬剤は胃酸分泌を抑える薬を基本として、胃酸の中和剤や消化管運動機能改善薬や漢方薬などを症状に応じて併用します。
治療期間は4~8週間を基本としますが、症状によっては維持治療が必要となる患者様も
おられます。胃カメラで食道炎が軽度の方については、胸焼け症状があるときだけ薬剤を服用する「オンデマンド療法」という方法も有効と考えられています。
最近、喉のつかえ感(咽喉頭異常感症)や慢性的な咳を訴えて来院される患者様が増加しています。
その原因としては本項で解説したGERDのほか、口腔内乾燥症、喉のアレルギーやストレスなどによる心因性などの頻度が高いですが、咽頭・喉頭癌といった絶対に見逃してはならない疾患に加え、食道アカラシア、好酸球性食道炎といった特殊な疾患も存在します。
その正確な診断には、耳鼻科受診に加えて、消化器内科での内視鏡検査が必要となります。当院では高精細な画質を有する最新の内視鏡を用いて検査が可能です。症状がご心配な方は一度当院を受診ください。
消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)
消化性潰瘍とは、食物を分解するための胃酸や消化酵素が胃や十二指腸の壁を深く傷つけることで起こる病気です。
胃粘膜にピロリ菌が感染することが主な原因ですが、最近では痛み止め(非ステロイド系抗炎症薬※)による薬剤性潰瘍も増えています。
ピロリ菌感染や痛み止め使用により、胃粘膜の防御機構が弱くなり胃粘膜に傷ができ、そこから潰瘍へ進行してしまうのです。
また、ピロリ菌感染者は喫煙やストレスにより潰瘍になりやすいことがわかっています。
ピロリ菌感染者の減少や除菌治療の普及により、患者数は年々減少していますが、時に出血(吐血や下血)や穿孔(胃や十二指腸に穴が開くことで腹膜炎を起こす)により命に関わることもある、気をつけなければいけない疾患です。
症状として、上腹部やみぞおちの鈍い痛みや吐き気を感じることが多く見られます。潰瘍ができる部位によっても症状は異なり、胃潰瘍では食後、十二指腸では夜間や空腹時に痛みを感じることが多いとされます。
そのため、症状や問診・診察から消化性潰瘍が疑われた場合、速やかに胃内視鏡検査を行い、診断・治療へつなげることが大切です。
当院では、受診状況によっては当日緊急の胃カメラも可能です。
そのため、検査希望の方は受診当日は食事を控えて来院ください(少量の飲水であれば来院時までは構いません。色の濃い飲み物は控え、水かお茶、スポーツドリンクにしてください)。
当日の流れがよくわからないなど、受診に際してご不明点のある場合、事前にインターネット予約から問診記入いただくか、直接当院までご連絡ください。
- ※ 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs: Non-Steroidal Anti-Inframmatory Drugs)
代表例として、アスピリン、ロキソニン、ボルタレン、ブルフェンなどがあります。アスピリンは痛み止めとしてではなく、脳卒中や心筋梗塞の再発予防で処方される患者様が多く、潰瘍発症により持病の悪化も心配されることから、潰瘍の予防治療がとても大切です。
機能性ディスペプシア
逆流性食道炎に加えて、最近非常に増えている疾患です。
健診受診者の11~17%、お腹の症状で医療機関を受診された方の45~53%に本疾患が見つかるともいわれています。
機能性ディスペプシア(FD: functional dyspepsia)とは、「症状の原因となる器質的な疾患がないのにも関わらず、慢性的にみぞおちの痛みや胃もたれ感などを呈する疾患」と定義されています。ディスペプシアという言葉は聞きなれないと思いますが、「消化不良」を意味するギリシャ語が語源です。
症状は上記以外にも食欲低下、吐き気など人によって様々な症状を伴います。
国際的な診断基準(RomeIV基準)では、食後のもたれ感や早期膨満感を主症状とする食後愁訴症候群(PDS: postprandial distress syndrome)とみぞおちの痛みや灼熱感を主症状とする心窩部痛症候群(EPS: epigastric pain syndrome)に分類されています。
原因としては多くの因子が複合的に関与し、幼少期の生育環境や遺伝的素因にストレスなどの心理的要因や消化管運動機能異常、内臓知覚過敏などの生理的要因が加わることで発症するとされます。
また、喫煙、不眠、食習慣の乱れなどの生活習慣も原因になります。
最近では細菌やウイルスによる感染性腸炎からの回復後に発症するという報告もあります。
また、前述したピロリ菌感染もFDの原因の1つです。除菌治療によって症状改善を認めた場合、ピロリ菌が原因のFDと診断されます(厳密にはピロリ関連ディスペプシアといってFDとは区別されます)。
FDの治療は、食習慣、喫煙、睡眠などの生活習慣を見直すと同時に、病型に応じて酸分泌抑制薬、消化管運動機能改善薬、漢方薬、抗不安薬などを併用します。
患者様が満足しうる症状改善、生活の質の向上を目指していくことが目標となります。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS: irritable bowel syndrome)とは、大腸や小腸に異常がないのに、下痢・便秘などの便通異常と、腹痛や腹部膨満感などの腹部症状が慢性的に続く疾患で、消化管運動の障害により発症します。
消化管運動がストレス、食事、薬など、わずかな刺激に対して非常に過敏になり、発症にはストレスが大きく関与することから、中枢(脳)と内臓知覚(消化管)の機能的関連である「脳腸相関」の異常によるものと考えられています。
日本人のおよそ10%がIBSであると言われ、とても多い疾患です。
機能性ディスペプシア同様、国際的な診断基準(RomeIV基準)により、便形状により便秘型、下痢型、混合型、分類不能型の4型に分類されます。
また、感染性腸炎の回復後にIBS(特に下痢型)を発症することも多く、これをpost-infectious IBSと呼びます(腸内細菌のバランスの変化もIBSの原因の一つと考えられており、現在研究が盛んに行われております)。
IBSの治療は、暴飲暴食を避ける、睡眠・休養をしっかりとるなどの食事指導・生活習慣改善に加え、病型に応じた治療薬(消化管運動機能調節薬、高分子重合体、セロトニン受容体拮抗薬、上皮機能変容薬をメインとした下剤、漢方薬、止痢薬、プロバイオティクス、胆汁酸吸着薬、抗不安薬など)の選択をおこないます。
IBSは、基本的には器質的疾患を全て除外した上で診断される疾患です。安易な診断は禁物であり、治療前には大腸カメラだけでなく、血液検査(炎症反応の上昇や貧血の有無、甲状腺機能異常など)や糞便検査、各種画像検査(腹部超音波検査やCT検査)を行うことがとても大切です。
ここ数ヶ月便通がすぐれず、またそれに伴いお腹の痛みが繰り返し起こり悩んでいらっしゃる方、是非一度大腸カメラ含めた検査を受けていただくことをおすすめします。
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)
炎症性腸疾患はIBD(アイビーディー:inflammatory bowel disease)と呼ばれ、広い意味では腸に炎症を起こす病気を指しますが、狭い意味では「潰瘍性大腸炎」「クローン病」のことを指します。
潰瘍性大腸炎(UC:ulcerative colitis)
名前の通り、原則大腸にのみ炎症(びらんや潰瘍)を起こす病気です。血便や下痢、腹痛などの症状が慢性的に続くのが特徴です。採血で貧血や炎症反応の上昇を認めることもあります。
直腸の炎症が強いと、便意切迫感(便意を感じるとすぐにトイレに行かないと間に合わない症状)やテネスムス(排便後も残便感が続く症状)が出ることもあります。
クローン病(CD:Crohn disease)
潰瘍性大腸炎と異なり、口から肛門まで、全ての消化管にびらんや潰瘍を発症します。
また、潰瘍性大腸炎よりも潰瘍が深くなることが特徴的であり、腸管に穴があいたり(穿孔)、近くの腸管とつながってしまう(瘻孔)ことがあります。
とくに小腸と大腸に多く、肛門部に「痔瘻(じろう)」という膿(うみ)がでる穴を伴う痔をしばしば伴うことがあり、痛みや排膿を自覚することがあります。
血便や下痢、腹痛に加えて発熱や栄養状態の悪化、採血で貧血や炎症反応の上昇などを認め、潰瘍性大腸炎に比べて症状がやや多彩であることが特徴です。
いずれも医療費の一部を国が補助する指定難病に該当し、原因がまだわかっていません。若年者に発症することが多く、長期的に病状が悪い時期(再燃期)と落ち着いている時期(寛解期)を繰り返すのが特徴です。
近年、医学の進歩に伴いIBDの機序が少しずつ解明されてきています。
遺伝や環境、腸内細菌の異常などの要因が様々に関わり、体内で免疫異常を起こすことで発症することがわかってきました。
衛生環境の整った先進国に多く、欧米型の食生活も関係していると考えられています。
日本では1990年代以降、急激に患者数が増えており、潰瘍性大腸炎は20万人、クローン病は7万人を超える患者様がいます。
潰瘍性大腸炎、クローン病いずれも診断には大腸カメラが必須となります。そして、病型・重症度に応じた治療選択が必要になります。
クローン病は小腸含めた他の消化管にも症状が出るため、CTやMRI、バリウム検査、カプセル内視鏡、小腸内視鏡といった特殊な検査が病態の把握に必要になることがあります。
IBDを正確に診断するには、食中毒の原因菌(サルモネラやカンピロバクターなど)やアメーバ赤痢などの腸炎と区別する必要があります。また、抗生物質や痛み止めでもIBDに類似した腸炎を発症することがあります。そのため、詳細な病歴聴取に加えて、便の培養検査、特殊な採血検査、大腸粘膜の生検(組織検査)などが必要になります。
潰瘍性大腸炎、クローン病は病態解明が進んではいるものの、まだ原因そのものを取り除く根治治療はありません。しかし、寛解という症状のない状態を実現する治療法は進んでいます。
とくに近年、新規治療薬※が毎年のように上市され、保険適用されています。これまで難治で手術が必要であった症例でも、多くの症例で手術を回避することが可能となってきました。
しかし、薬の飲み忘れや自己中断は症状再燃の原因となるため、完治する治療法が見つかっていない現在では、長期的な治療継続が必要となります。
一方、病状が悪化し投薬での治療効果が得られない場合、依然として入院治療や手術が必要になる患者様はおられます。
※ 治療の基本薬としては活動期にのみ限定して使用するステロイド剤(プレドニゾロンやブデソニド)、活動期および維持期に用いる5-ASA製剤、免疫調節薬(アザチオプリン)があります。それに加えて、近年中等症〜重症の患者様に対して、TNF-α抗体製剤(レミケード®、ヒュミラ®、シンポニー®)、α4β7インテグリン抗体製剤(エンタイビオ®)、IL-12/23抗体製剤(ステラーラ®)、IL-23抗体製剤(オンボー®、スキリージ®)といった静注/皮下注製剤や、JAK阻害薬(ゼルヤンツ®、ジセレカ®、リンヴォック®)といった経口薬が登場しています。
症状が落ち着いている状態(臨床的寛解と呼びます)では、生活への影響はほとんどありません。ストレスや疲労をため過ぎない、暴飲暴食をしないといった基本的な注意で十分です。食事は、症状があるときは低脂肪・低残渣で刺激の少ない食事を行いましょう。
寛解時には潰瘍性大腸炎は食事はとくに制限は必要なく、クローン病では脂質制限が望ましいとされますが、強い制限は必要ありません。
クローン病は炎症の影響で腸管が狭くなる(狭窄)ことがあり、その場合は不溶性食物繊維が腸閉塞の原因になるため避けた方が良いです。また、喫煙が入院手術リスクを高めることがわかっており、禁煙が強く推奨されます。
潰瘍性大腸炎、クローン病ともに、専門性の高い治療が必要となります。
当院ではIBDに対して長年の診療経験をもつ院長が診療にあたりますが、病状によってはIBD専門医療機関での治療が望ましい病状もあるため、適切なタイミングで適切な医療機関への紹介を心がけていきます。
ご心配な方はいつでも当院へご相談ください。
脂肪肝(SLD: steatotic liver disease)
肝細胞の30%以上に脂肪が蓄積された状態を脂肪肝(SLD:steatotic liver disease)と定義します。
食べ過ぎや飲み過ぎ、運動不足などにより、エネルギーとして利用されなかった糖質などが中性脂肪として肝臓へ蓄えられる結果起こるものです。
脂肪肝はメタボリック症候群※の肝臓における表現型であり、肥満・耐糖能異常・脂質異常症・高血圧などと密接な関係があります。
※ メタボリック症候群:内蔵脂肪型肥満をもとに、高血糖、高血圧に脂質異常が重なることで心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患の発症リスクが高くなる病態です。
日本では、腹囲が男性85cm、女性で90cmを超え、高血圧・高血糖・脂質異常のうち2つ以上が当てはまる場合にメタボリック症候群と診断されます。
同じ食事や運動をしていても、太りやすい人やそうでない人がいるように、肝臓への脂肪のたまりやすさも体質によって異なります。最近の研究では、脂肪肝になりやすい遺伝的素因として、PNPLA3などの遺伝子の型が関係していることがわかってきました。
脂肪肝はその原因により以下に分類されます。
- ①アルコール性肝障害(ALD: alcohol associated liver disease)
- 飲酒量がエタノール換算で男性60g/日、女性50g/日以上が基準とされます。
- ②MASLD(metabolic dysfunction associated liver disease、マッスルドと呼びます)
- 生活習慣病を背景とした脂肪肝から脂肪肝炎(MASH:metabolic dysfunction associated steatohepatitis、マッシュと呼びます)、肝硬変に進行した状態までを含む一連の状態をさします。アルコール性、ウイルス性(HBV, HCV)、薬剤性など他の肝疾患を除外することで診断されます。
飲酒量はエタノール換算で男性30g/日、女性20g/日未満が基準とされます。
MASLDでやや飲酒量が多い(男性30~60g/日、女性20~50g/日)患者群はMetALD(MASLD and increased alcohol intake)と定義されます。
MASLDのうち80~90%は長い経過を見ても脂肪肝のままで、あまり進行は見られません。一方、残りの10~20%は徐々に病状が進行し、線維化が進んで肝硬変に進行したり、肝がんを発症します。この進行する状態をMASHといいます。
ALDも飲酒を継続することで同じ経過をたどり、肝硬変、発がんに至ります。
一方、肝臓はよく「沈黙の臓器」といわれるように、進行した肝硬変(非代償期といいます)にならないと自覚症状はほぼありません。
2023年6月、肝臓学会より、肝疾患の早期発見・早期治療のため、「奈良宣言2023」が発表されました。
その内容としては、ALT>30U/Lを超えるようならばかかりつけ医の受診を推奨するものですが、中でも脂肪肝を有し、血小板数20万/μl未満あるいはFIB-4 index 1.3※1以上の場合は、線維化が進んだMASLDとして肝がんリスクが高く肝臓専門医への受診が推奨されています。
脂肪肝の診断には腹部超音波(エコー)検査が有用です。
※ FIB-4 index:画像検査を行わず間接的に肝臓の繊維化(硬さ)の度合いを推定するもので、年齢・AST・ALT・血小板数から計算されます。
1.3未満が低リスク、2.67以上が肝がん高リスクとされます。
線維化マーカー:肝臓の硬さをみる指標として、直接採血で測定可能な項目です。
ヒアルロン酸、IV型コラーゲン7s、M2BPGi、オートタキシンなどが挙げられます。
FIB-4 index や腹部超音波などと合わせて、病状を総合的に判断していきます。
治療の原則は、ALDでは禁酒、MASLDでは食事療法・運動療法※2が基本となり、並行して背景にある糖尿病・脂質異常症・高血圧などに対する薬物療法を行います。
そのほか、抗酸化作用のあるビタミンE製剤なども併用します。
※2 運動療法では7~10%の減量が有用とされます。ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を週3~4回、30分以上行いましょう。関節に負担のかけない程度の筋トレなどを加えると、筋肉量が増大して基礎代謝も高まりさらに効果的です。
最近、日本人の25%以上が脂肪肝を有しているといわれています。
線維化が進んだMASLD、アルコール性脂肪肝(ALD: alcohol associated liver disease)は症状がなく、病識が乏しいことから医療機関を受診する機会が少ない一方、肝がんリスクが高い患者群です。
また、MASLDの患者様は心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患の発症率も高く、メタボリック症候群の抑制、肝線維化・発がんの抑制いずれも注意して治療しなくてはなりません。
そのような患者様を地域のクリニックでいかに拾い上げ、生活指導含めた治療介入を行っていくかが非常に大切です。
- 健診の超音波検査で脂肪肝の指摘されているものの放置している方
- 健診で肝機能異常および脂質、血糖、血圧、尿酸値で毎年引っかかっているが放置している方
脂肪肝を決してあなどってはいけません。
ぜひ一度当院を受診いただき、適切な今後の治療の必要性について話し合っていただくことをお勧めします。
胆石症
胆汁とは、脂肪分やビタミンの消化・吸収を助ける黄褐色の液体であり、肝臓から1日600~1000ml程度産生されています。
胆汁は胆管という管を通って肝臓から十二指腸へ分泌され、途中にある胆のうという袋状の臓器に一部が蓄えられ、濃縮されることで効率の良い消化吸収が行われています。
胆石症とは、胆管・胆のうに石ができる病気です。
胆石は大きく分けてコレステロール結石、色素結石の2種類に分けられます。
最も多いのはコレステロール結石で、胆汁中のコレステロール濃度が高くなることで結晶化し、これを核に結石ができます。
脂肪分の多い食事や高カロリー食、肥満、脂質異常症、糖尿病、妊娠、急激なダイエット、胃の切除後などで胆石ができやすくなります。
色素結石にはビリルビン結石といわれるものが多く、胆汁に細菌が感染することが原因といわれています。
胆石の発生部位は、胆のう結石が全体の80%以上を占め、一般的には胆石といえば胆のう結石のことを指します。
胆のう結石は多くは無症状で、症状が出るのは20%程度といわれます。食後少ししてから右季肋部痛(右肋骨の下あたりの痛み)が出ることが特徴です(胆石発作と呼びます)。
胆石が胆のうの出入り口にはまり込んでしまうことで起こる症状ですが、この状態のまま細菌が胆汁に感染すると(急性胆のう炎)、早期治療が必要な状態になります。
胆管結石は頻度は少ないものの、黄疸、発熱を伴いやすく(急性胆管炎)、容易に敗血症から重篤な状態へ至るため、経過観察は推奨されません。
胆石症の診断に最も簡便かつ確実なのは、腹部超音波(エコー)検査です。
胆管結石はエコーでは描出困難なことが多く、CTやMRCP、超音波内視鏡検査(EUS)といった検査が必要になることが多いです。
胆のう結石は、無症状では年1~2回程度のエコー検査による経過観察が望ましいとされますが、基本的には治療は不要です。
一方、胆のう結石による何らかの症状がある方や、胆管結石を認める方は治療が必要です。具体的には、外科的に胆のう摘出術を行ったり、内科的に胆管・胆のうドレナージ術や内視鏡的結石除去術が行われます。
院長は胆石治療を含む、胆道疾患の診療において、長年の経験があります。症状にご心配な方はぜひ一度当院へご相談ください。
- Q 胆のうは手術で取ってしまっても大丈夫?
- 胆管が胆汁の分泌機能を担うため、消化吸収には影響はありません。術後は一時的に下痢・軟便を起こすことはあるものの、自然に軽快します。
- Q 胆石はがんの原因になるの?
- 胆石が原因でがんになるという明らかなデータは存在しません。一方、胆のうがんには70~90%以上の割合で胆石の合併を認めることから、胆石症と診断された場合はがんの合併がないかどうか、しっかり経過観察を行うことが必要です。
膵疾患(膵がん、膵嚢胞、慢性膵炎など)
膵臓は胃の裏側に位置しています。そのため、患者様の多くは膵臓からくる痛みを胃の痛みや張り感と勘違いし、医療機関を受診されます。
症状を伴う膵疾患は重篤なものが多く、中でも膵がんは早期診断・治療が難しい病気の代表であり、診断の遅れが命取りになります。
日常診療において、症状からいかに膵がんを早期に診断するか、膵がんのリスクファクターをいかに拾い上げ、早期発見に向けた検査を行っていくか。膵疾患は十分な知識と経験が要求される消化器内科の専門領域です。
院長は長年にわたり膵疾患を専門として診療してまいりました。
- 膵がんの家族歴がある方
- アルコール多飲される方、ヘビースモーカー
- 慢性的なみぞおちの痛みがあるのに胃カメラで異常がないと言われた方(腰背部痛を主に訴える方もおられます。)
- 体重が明らかに減少している方
- 痛みなどの症状はなく、黄疸を認める方(多くの方は家族に指摘され来院されます)
- 糖尿病が急激に悪化してきた方
- 腫瘍マーカー(特にCA19-9)高値を指摘された方
- エコー検査で膵嚢胞※1や主膵管拡張、慢性膵炎※2を指摘された方
- 原因不明の膵炎を発症したことがある方
このような方はぜひ一度膵臓の精密検査を受けた方が良いと判断されますので、一度当院へご相談ください。
当院では腹部超音波での初期検査の他、適切なタイミングで腹部CT、MRI検査を連携医療機関へご紹介し、遅滞のない診断・治療へつなげていきます。
- ※1 膵嚢胞:膵臓内にできる液体の溜まりで、エコー検査やCT、MRI検査で偶然指摘される例が増えています。
嚢胞を呈する膵疾患は多岐にわたりますが、中でも、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN: intraductal papillary mutinous neoplasm)という病気は、膵がん高危険度群の代表疾患です。
有症状(黄疸や膵炎合併など)の場合や主膵管型のIPMNは原則手術適応となりますが、無症状でも経過観察が必要となります。
また、IPMNと診断されない膵嚢胞であっても、膵がん発生リスクは一般人口の22.5倍とされる報告があり、慎重な経過観察が必要です。 - ※2 慢性膵炎:膵臓は、インスリンなどのホルモンを血中に分泌して血糖値をコントロールする働き(内分泌)と、様々な消化酵素を作り、十二指腸へ分泌して食べ物を消化する働き(外分泌)を担う臓器です。
慢性膵炎とは、年単位の経過で膵臓自身が消化液で自己消化され、慢性炎症を起こすことで膵臓が硬くなり(線維化・萎縮・石灰化)、膵機能(内外分泌機能)が低下することで種々の症状を認める病気です。アルコール多飲(1日60g以上)が原因の80%を占めます(女性は半分以上が原因不明であり、遺伝性素因の関与も指摘されています)。
人口10万人あたり11.6人程度と推計されています。
自覚症状として慢性的な腹痛、背部痛を繰り返すことが多く、病状が進行すると膵臓が線維化・萎縮してくることで痛みはむしろ軽減します。そして内外分泌機能が低下することで、糖尿病の発症や脂肪便(不消化のギラギラした便、下痢)や体重減少を認めるようになります。
慢性で経過する病気であり、基本的に治ることはありません。
治療は断酒は大前提のもと、慢性膵炎の進行した病期に応じて、脂肪制限や消化酵素補充薬、鎮痛目的にタンパク分解酵素阻害薬や鎮痛薬投与が行われます。
また、喫煙も慢性膵炎の進行させる原因となるため、禁煙指導が大切です。
そして何よりも、慢性膵炎の患者様は一般人口に比べて13倍の膵がん発症率と報告されています。
膵がんの早期発見のため定期的な腹部エコー、CT、MRIなどの検査が必要です。
食道がん
本邦では最新の統計によると、年間約26,000人の方が新規に食道がんと診断され、年間約11,000人の方が亡くなっています。患者様のほとんどは男性です(男女比 5:1)。
食道がんの中でも本邦は扁平上皮癌といわれるものが圧倒的に多く、その危険因子は飲酒と喫煙です。とくに飲酒後に顔が赤くなる人(flusherといいます)や以前は赤くなったが今は赤くならない人(former flusher)は、飲酒による発がんリスクがとくに高いといわれています。
診断のきっかけとしてよく見られる症状は「食べ物のつかえ感」です。
症状がより進行すると、がんが隣接する気管に浸潤することで頑固な咳や痰、胸の痛みを起こしたり、リンパ節に転移したがんが喉の神経に浸潤することで嗄声(させい:声のかすれ)を起こすこともあります。
いずれも進行した時期の症状であり、早期には症状は全くありません(※後述する胃がん、大腸がんにも共通することです)。
また、食道がんはリンパ節転移を来たしやすいがんとして知られており、表在がん(粘膜下層にとどまるがん)と呼ばれる小さいがんで診断されても、すでに40%以上の頻度でリンパ節転移をきたしていると報告されています。
リンパ節転移を認めた場合、内視鏡単独での根治は困難であり、外科手術や放射線治療、抗がん剤治療(放射線治療と併用することもあります)といった治療を考慮しなくてはなりません。
その中でも、食道がんの手術は非常に身体への負担の大きいものとなります。
一方、早期がん(EP/LPM:上皮内がん、粘膜固有層内がん)と呼ばれる、食道のごく表面にとどまる状態で診断できれば、リンパ節転移の可能性はほぼ0%といわれており、内視鏡治療での根治が可能であり、身体への負担は非常に軽いものとなります。
早期食道がんは内視鏡で観察しても、隆起はほとんど認めず、わずかな色調の変化でしか病変を認識できないようなものが多く存在します。
そのため、食道がんのリスクを有する患者様をいかに拾い上げ、詳細に内視鏡を用いて食道を観察することが早期発見には大切になります。
また、食道がんには喉頭がんや咽頭がんといったがんも合併しやすいことが知られており、危険因子も共通しています。
赤ら顔になりやすい飲酒愛好家でかつ喫煙を行う方はぜひ内視鏡検査をお勧めします。
当院では高精度の内視鏡を用いて咽頭+食道観察が可能です(より専門性が高いと判断される場合は、耳鼻咽喉科をご紹介させていただくことがあります)。
ぜひご相談ください。院長が丁寧にご説明させていただきます。
胃がん
本邦では最新の統計によると、年間約124,000人の方が新規に胃がんと診断されています。
これは男性では前立腺、大腸に次いで第3位、女性では乳腺、大腸、肺に次いで第4位の患者数です。一方胃がん死亡数は年間約42,000人で、男性・女性ともに減少傾向にあります。
これは胃がんの最大のリスクファクターであるピロリ菌感染率の減少に加えて、胃カメラによる早期診断・治療の成果が非常に大きいと考えられます。
粘膜内癌といって、胃粘膜にがん細胞がとどまる段階で診断できれば、胃癌のほとんどは外科手術は不要で、内視鏡治療(ESD: endoscopic submucosal dissection、内視鏡的粘膜下層切除術)での根治が可能です。
その一方で、過去にピロリ菌検査を受けたことがなく、胃痛や食欲不振、体重減少などで初めて医療機関を受診され、胃カメラで進行した胃がんが見つかる方も一定数おられるのも現実です。
進行胃がんの状態でみつかった場合、手術で一命をとりとめる方もおられますが、遠隔転移といって他の臓器や遠いリンパ節までがん細胞が及んでしまうと、手術での根治は難しくなり、命にかかわる状態となります。
胃がんは自覚症状のない段階で発見することが極めて重要です。
そのためには胃カメラを定期的に受けることが大切です。
とくに、ピロリ菌感染者(除菌された方を含む)の方は、ぜひ定期的に医療機関を受診し胃カメラを受けてください。
※胃癌はピロリ菌感染に伴う「萎縮性胃炎」を母地として発生することが多く、ピロリ菌除菌後も胃癌リスクは残存することに注意してください(詳しくはヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の項を参照)。
※健診で行われるバリウム検査やCEAやCA19-9などの腫瘍マーカー測定では内視鏡治療が可能な早期の段階での胃がん診断は困難です。
参考:日本消化器内視鏡学会ホームページ
しかし、胃カメラはつらい検査と思われがちです。
当院では、苦痛を最小限に抑えられるよう、
①えずきの少ない鼻からの胃カメラ(経鼻内視鏡検査)②鎮静剤を用い、眠った状態で受ける胃カメラが可能です。
また、使用する内視鏡は最新鋭のもので行いますので、ご安心ください。
ご心配な方は、ぜひ当院へご相談ください。
大腸がん
本邦では最新の統計によると、年間約155,000人の方が新規に大腸がんと診断されています。
これは男性では前立腺に次いで第2位、女性では乳腺に次いで第2位の患者数です。一方大腸がん死亡数は年間約51,000人です。
胃癌が減少傾向にあるのに対して、大腸がんは年々増加傾向にあります(ここ20年間で死亡者数が1.5倍となっており、生活習慣の欧米化が関与しているといわれています)。
特に、女性のがん死亡数で最多のがんとなっており、対策が急務です。
大腸がんの発生には、高脂肪食、低繊維食、飲酒、喫煙、運動不足などの環境因子と遺伝性要因が関与するとされ、50歳を超えると発症率が急激に増加します。
家族性大腸腺腫症(FAP: familial adenomatous polyposis)やリンチ症候群といった遺伝性疾患はより若年で大腸がんを発症するため、家族歴を含めた、病歴聴取が大切です。
胃がん同様、早期では無症状のことが多く、進行大腸がんになった時点ではじめて便通異常(便秘、下痢、便の狭小化)、血便などが現れます。
右側大腸は便が液状のため、さらに症状がでにくく、健診で貧血を指摘され医療機関を受診したところ、進行大腸がんが原因であった、ということも少なくありません。
とくに便秘については、放置していると腸閉塞を起こすことがあり、緊急入院での治療が必要になることがあります。
胃がん同様、診断時に遠隔転移がすでにあり、手術での根治が困難となっているケースも少なくありません。
自覚症状のない大腸がんをみつけるために、本邦では40歳以上を対象に便潜血検査(FIT: fecal immunochemical test※)による対策型検診が市区町村単位で行われています。
ぜひ毎年検査を受け、検査結果が「要精検」となった方は大腸カメラを行いましょう。
そして大腸がんの診断、早期発見のゴールドスタンダードは大腸カメラです。
大腸がんはポリープ(腺腫や鋸歯状病変といわれるもの)から発生するルート、ポリープを介さずに直接がんが発生するルート(de novoがんといわれます)などがあり、大腸カメラではすべての病変を検出することが可能です。
また、早期の大腸がん(上皮内がんや一部の粘膜下層浸潤がん)や前がん病変としてのポリープは内視鏡で切除可能であり、外科手術を必要とせずにがんの治療、予防が可能です。
つまり、定期的に大腸カメラを行うことが、大腸がんによって命を落とす危険性を下げるもっとも有効な方法なのです。
以上をお読みいただいた上で、ご不安な方、検査を希望される方は、院長が丁寧に診察、ご説明しますので、当院へご来院ください。
- ※ 便潜血検査(FIT)
- 2日間の便を調べて、1日でも陽性と判断されれば、内視鏡検査による精密検査が必要です。便潜血検査により、進行がんの90%以上、早期癌の約50%、腺腫などのポリープの約30%を見つけることができ、その結果、大腸がんの死亡率を約60%、大腸がんになるリスクを46~80%下げることが報告されています。
一方、逆に考えれば、腺腫の70%、早期癌の50%、進行がんの10%はFITでは見落とされてしまうことになります。FITが陰性であったとしても、定期的に大腸カメラを受けることが大腸がんによる死亡率を下げるためにはとても大切です。
大腸ポリープ
大腸ポリープとは、大腸の内腔の最表層にある粘膜という薄い層から発生した、隆起した病変を指します。
組織学的には腺腫性ポリープと非腺腫性ポリープに大別され、
腺腫性ポリープ:腺腫、SSL(sessile serrated lesion)、がん
非腺腫性ポリープ:過形成、過誤腫(若年性ポリープなど)、炎症性ポリープ
などが含まれます。
大腸ポリープの80%が腺腫と報告されていますが、腺腫は大きくなるにつれてがん化する「前がん病変」です。
5mm以下で0.4~0.5%, 6~9mmで3~4%, 10mm以上で10~25%にすでにがん化しているといわれています。
ポリープ(腺腫などの良性腫瘍)が全てがんになるわけではありませんが、ポリープを内視鏡的に切除することで大腸がんになる死亡率を下げることが証明されています(2次予防)。
また、親子、兄弟などの血縁者に大腸ポリープや大腸がんと診断された方がいる場合、大腸がんの危険性は3倍といわれています。
一度も検査を受けたことがない方、とくにご家族に大腸ポリープや大腸がんがおられる方は、ぜひ早めに大腸カメラを受けることをお勧めします。
大腸ポリープの治療
ポリープの形や大きさに応じて以下の3つの治療法があります。
いずれも内視鏡のみを用いて行われる治療であり、お腹にメスは入れません。
- ①ポリペクトミー
- ポリープの茎にスネアという金属の輪をかけて、高周波電流を流して切除します。
最近では、平坦なポリープに対して、スネアや大きい鉗子を用いて電流を流さずにそのまま粘膜を削ぐように切除する、コールドポリペクトミーという手技が安全性(とくに出血リスクの低減)の面から広まっています。
※コールドポリペクトミーは癌には行ってはならない手技であり、切除前に前癌病変である腺腫やSSLであることを高解像度の内視鏡を用いて正確に診断する必要があります。 - ②EMR(endoscopic mucosal resection)
- 粘膜の下に薬液(主に生理食塩水)を注入し病変を持ち上げ、スネアをかけて高周波電流で切除します。主に茎のない平坦なポリープに対して行います。
- ③ESD(endoscopic submucosal dissection)
- 粘膜の下に薬液(主にヒアルロン酸)を注入し、専用の電気メスで周囲粘膜を切開し、病変を少しずつ剥離して一括切除します。大きな病変や、EMRでの切除が難しい病変に対して用いられます。
当院では①②を主に行い、なかでも小さい病変に対してはコールドポリペクトミーを積極的に取り入れ、安全性の高い治療を行っております。
一方、出血リスクが高く、入院による治療も考慮されるような大きいポリープやがんについては、高次医療機関へご紹介させていただきます。
肝がん
肝がんは、肝臓の細胞から発生するがん(原発性肝がん)と、他の臓器のがんが肝臓に転移したがん(転移性肝がん)に大別されます。
原発性肝がんの90%は肝細胞がんであり、一般的には肝がんとは「肝細胞がん」を指します。
原発性肝がんには他に肝内胆管がん(胆管細胞がん)などがあります。
肝がんの主な原因は、B型肝炎ウイルス(HBV: hepatitis B virus)やC型肝炎ウイルス(HCV: hepatitis C virus)の持続感染といわれています。
肝細胞での炎症と再生が繰り返されるうちに、慢性肝炎から肝硬変(肝臓が線維化し硬くなってしまう状態)を経て肝がんを発症します(慢性肝炎の状態からも肝がんを発症することがあります)。
その他の原因として、大量飲酒によるアルコール性肝障害(ALD: alcohol associated liver disease)、メタボリック症候群に起因する脂肪肝炎(MASH: metabolic dysfunction assosiated steatohepatitis)などがあります。
脂肪肝炎とは、肥満や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病により、肝臓に脂肪がたまって炎症を起こした状態で、慢性肝炎と同じようにやがて肝硬変に至ります。
このように、アルコールを除く、生活習慣病を背景とした脂肪肝から脂肪肝炎や肝硬変に進行した状態までを含む一連の状態をMASLD(metabolic dysfunction assosiated liver disease)といいます。
※MASH/MASLDは、以前はNASH(nonalcoholic steatohepatitis)/NAFLD(nonalcoholic fatty liver disease)と呼ばれていましたが、「alcoholic」「fatty」が不適切用語と判断され、名称が変更されました(厳密には定義がやや異なりますが、ほぼ同一のもの考えて差し支えありません)。
※MASLDのうち80~90%は長い経過を見ても脂肪肝のままで、あまり進行は見られません。一方、残りの10~20%は肝炎から徐々に病状が進行し、肝硬変に進行したり、肝がんを発症します。この進行する病状をMASHといいます。
肝がんは50歳代から増加し、男女比は2:1と男性に多いのが特徴です。
本邦では最新の統計によると、年間約37,000人の方が新規に肝がんと診断され、24,000人の方が亡くなっています。
肝がんは新規患者数、死亡者数ともに減少傾向にありますが、それはHBVに対するワクチン接種(現在は定期接種化されています)や抗ウイルス薬の普及、HCVの根治を可能にした経口薬(DAAs: direct acting antivirals)の登場が大きいと思われます。
しかしその一方で、MASLDに起因する肝がんが最近増加傾向にあり、その対策が急務となっています。
特に糖尿病を合併されるMASLDの患者様は肝硬変への進行や肝がんの発症リスクが高いことが報告されています。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、がんを発症しても自覚症状はほぼ認めません。
診断のきっかけとしては、健診などでたまたま行った腹部超音波(エコー)検査やCT検査で偶然指摘されるケース、「黄疸、倦怠感」や「腹水貯留、むくみ」、「吐血(食道・胃静脈瘤の破裂)」といった、肝硬変が進んだ症状(非代償期)で医療機関を受診し、その際に撮影したCT検査などで見つかることが多いです(肝がんが進行、増大し、腹部診察でがんそのものを触れることもあります)。
そのため、肝がんの早期発見・予防には、肝がんリスクのある患者様を適切に抽出した上で、症状が出る前に定期的な腹部超音波(エコー)検査、CT、MRI検査、採血(FIB-4 index含む※)腫瘍マーカー測定(AFP, PIVKA-II)などを行っていくことが大切です。
肝がんは早期で発見すれば、外科手術やラジオ波焼灼治療(RFA: radiofrequency ablation)、血管内カテーテル治療(TACE: transarterial chemoenbolization)などで一旦は根治可能です。
肝がんは線維化が進行した肝臓を背景に発症するため、肝臓の別の部位からも発がんしやすい状態です。そのため、治療後も新規病変の早期発見を目的とした経過観察が必要となります。
※ FIB-4 indexとは、画像検査を行わず間接的に肝臓の繊維化(硬さ)の度合いを推定するもので、年齢・AST・ALT・血小板数から計算されます。
1.3未満が低リスク、2.67以上が肝がん高リスクとされます。
健診などで肝臓が悪いといわれてご心配な方、ぜひ一度当院へご相談ください。
肝硬変にすでに至ってしまっている方については、病状によっては総合病院での定期通院・治療を受けた方が良いもおられるため、当院ではその橋渡しも含めて適切に行っていきたいと考えています。